多くの高齢者の栄養ケアに携わっている中で、私が一番危惧しているのが栄養不足(低栄養)。
低栄養になるきっかけの多くは「食欲不振」。食欲不振なんて、年を取ったら当たり前におこることじゃないの?とか年を取ったらそんなに栄養も要らなくなるから問題ないんじゃない?と思いませんか?高齢者の老いの加速は、些細なきっかけから始まります。実は、その中でも「栄養不足」は強い影響を持っています。若い頃の一時的な食欲不振と違って、高齢期になると複合して起こってくるので放っておくのはNG!毎日少しずつの栄養不足でも長期化し、慢性的な栄養不足になると栄養失調になってしまいます。
・慢性疾患によるもの
・胃腸や消化器症状の機能低下
・噛む力や飲み込む力の衰え
・味覚の低下
・精神的な落ち込み
・不安や孤独感
・認知機能の低下
・活動量の不足
・便秘や腹部膨満感によるもの
・薬剤の影響、副作用
今の時代に栄養失調(低栄養)⁈って思うかもしれませんが、日本の65歳以上の男性12.4%、女性20.7%が低栄養の傾向にあると報告されています。
・体重が減少する
・筋肉量や筋力が低下する
・転倒や骨折を起こしやすくなる
・誤嚥性肺炎や尿路感染症を起こしやすくなる
・免疫力が低下し、感染症が重症化しやすくなる
・床ずれができやすくなる
・活気がなくなる
・認知症が進行しやすくなる
・脱水を起こしやすい
どれも、要介護状態に近づきやすい症状ですし、元々要介護状態であれば介護度が容易に上がってしまう状況が起こってしまいます。中には命に関わるものも・・・
年を取ったら誰にでも起こることと思っていた「食欲不振」を放っておけない理由がお分かりいただけましたでしょうか。
食欲不振の対応方法としては
・食べやすいものに食事内容を調整する
・食事の硬さや形状を工夫する
・入れ歯や口の中のケアをする
・排便コントロールをする
・原因となっている薬剤を変更または減薬する
・食事をする場所の環境を整える
・少量でも栄養が取れる工夫をする
・脱水の治療をする
など食欲不振の症状別に対応を検討していきます。
食欲不振の対応を文章に書くのは簡単なのですが、食欲不振が進行してしまった後だと対応は結構大変です。「体のためだから食べてね!」と言ったところで、食べられない状況はすぐに改善するとも限りません。先にも述べたように原因が複合していれば、アプローチの方法も複雑になり、改善するまでに時間も掛かってしまいます。
食欲不振による低栄養で体が衰弱してしてしまった場合、入院する可能性もあります。入院したら安心してしまわれるご家族も多いのですが、残念ながら入院期間の限られている病院では一時的な栄養ケアしか出来ません。入院中の栄養ケアで回復されたとしても、退院してお家に戻られた時に元の環境下と変わっていなければ、また同じように食欲不振を繰り返してしまうことだってあります。この入退院を繰り返される方も実は少なくないんです。しかも、入退院を繰り返す方は回数を重ねるごとに重症化して来られます。
できれば、食欲不振による低栄養を引き起こす前にどうにかしたいものですが、先に上げた低栄養になると起こりやすい症状が出ていれば栄養の専門家に相談することをお勧めします。